【WEBドキュメンタリー小説】シリーズ「採用の原点」vol.2/特定メディアに癒着する本音<全3回>

【WEBドキュメンタリー小説】
シリーズ「採用の原点」vol.2/特定メディアに癒着する本音<全3回>

シリーズ採用の原点vol2

 

営業マネージャーから相談を受けた飲食店は、都内のオフィス街で15坪ほどの大衆居酒屋を経営している店だった。店はゆるやかではあるが、少しずつ固定の常連さんも増え、激戦といわれるフード業界の中で着実に基盤を固めていった。創業者でもある店長は、2号店へ向けた構想もあり、今後、現在運営する1号店を任せられる人材を見つけたいと考えていた。今の既存メンバーから優秀な人材を後継者として育てるアイデアもあったが、現状、店舗運営のほとんどすべてを店長の采配で行われており、従業員はすべて短時間ワークのアルバイトスタッフだった。社員としてフルタイムワークで働くことは考えていないメンバーばかりの為、今回の採用に向けた動きに至った。そして、あのシタリ顔のキャリア20年のベテランマネージャーの見事なまでの採用プランにより、正社員(店長候補)での求人募集を2週間ほどかけ、結果、反響0という不幸な終わりを迎えたわけである。

 

昨今の人材採用は厳しい。こんな話をもう10年も前から言われている気もするが、特にフードワークの求人広告は広告の数自体も多く、反響割れ(同業界の中で応募者を奪い合うこと)を起こしやすいと言われている。労働環境に厳しいというイメージや待遇面の悪さなど、様々な要因を指摘することもあるが、それはどの業界であれ、ある程度抱えている問題だ。そもそもの広告数の多さ、反響割れを起こすひとつの要因だろう。しかし、人気がない仕事というわけではない。フードワーク専門の求人メディアや大手求人メディアもフードワーク特集を盛んに企画している。

 

クライアントに投資という考えを抱いてもらい、ある程度の予算規模で次の採用に臨むか、広告のコンセプト(打ち出し)をイチから練り直し、低予算でも採用成功できる道筋を立てるか。対策はひとつではない。広告の内容を精査し、次にコピーライティングを再考し、業界やエリア(地域)の傾向、掲載時期の動向、掲載する求人メディアの効果測定などを一つひとつ丁寧に分析していく。
しかし、それ以前の問題だった。私が愕然とした理由、それは営業マネージャーの勧めていた求人メディアにあった。彼の必須事項として推していた求人メディアはアルバイト専門の求人メディアだった。ユーザーのほとんどは学生か20代前半のフリーター層で、社員志向を持つユーザーとは一線を引いたメディアである。正社員の募集案件などはほとんどなく、同時募集として2番手・3番手に小さく記載されるのが主流だ。この時期は年末年始の影響で採用が一旦落ち着くこともあり、レギュラーワークというよりはむしろ「年末年始の短期募集」の匂いが強い。サクッと楽に稼げる♪楽しいバイト生活をコンセプトにした求人メディアで、なぜに正社員募集を行うのか。正社員として頑張りたいという人材は全く見ないというわけでもないだろうが、いや、あえて言わしてもらいたい。まったく彼ら正社員志向のユーザーは見ないメディアだろう。営業マネージャーがひとつ考えている戦略として、前回反響がゼロだった教訓を踏まえ、特集ページにも掲載するそうだ。つまり求職者へのアピール動線をひとつ増やす戦略である。ただ、その特集のタイトルが「短期で稼ぐ!」…であった。
営業マネージャーの思惑はこうだ。とりあえずいろいろな人の目に触れて…。若者もよく見ている媒体だし、目下私の役目は、アルバイト専門雑誌に店長募集の広告を載せることで、確実に採用成功を実現することにある。ユーザーのほとんどがこの年末年始の短期募集に期待を寄せて、募集ページを覗きにくる中、ひときわ輝くキャッチコピーで「あ~短期じゃなくて、店長になりたい!」と想わせる為の広告を作れば案外反響がでるかもしれないし、ま、その辺は広告ディレクターにお任せしましょう。アルバイトサイトで社員採用を実現する。それくらい、プロのコピーライターなんだから、不可能を可能にできるはず、すばらしく良い人を採用できれば、客先も喜ぶし、自分の信頼も上がる。なにより今月の売上も達成するし、最高の年末を迎えられる。という話である。

 

忘年会シーズンは飲食店にとっても今年最後の書き入れ時である。一年の締めくくりは最高の売上で終わりたい。アルバイト採用の時期としては10月でピークを迎えるものの、それでもまだまだ取りきれていない飲食店は、この11月で最後の頼みとばかりの求人募集をかけてくる。12月ともなれば、新人教育に時間をかけてる暇はなくなってくる。クリスマス限定で短期のアルバイトが欲しいといったスポット的な募集だけとなり、求人広告業界自体も11月からは少しずつ仕事が落ち着いてくる時期だ。それほどの時期にただでさえ正社員募集の動くが鈍くなる時期に、なぜ、特定の求人メディアに固執し、そして採用ゼロという不幸な結果を招いてしまうのか。これまでにない斬新な発想の採用手法が残念ながら失敗した、というわけでもない。なぜ正社員募集の求人情報をアルバイト専門メディアに掲載するのか。冷静に考えれば誰もが疑問に思うだろう。実はここが人材業界の採用のプロたちをおかしくさせる業界内の不穏な影である。その理由は業界内の“ある体質”と契約にあった。

 

つづく

【WEBドキュメンタリー小説】シリーズ
「採用の原点」vol.1/求人広告業界の現実<全3回>
https://honkino.com/2016/07/06/post-148/

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