採用成功とは何か。求人広告代理店の社長が見失い続けた採用の原点

「餅は餅屋」とは、よくいったものですが、やはり名刺屋の店主が差し出す名刺は、質の良いモノであって欲しいし、肩こりに悩む整体師の施術はちょっと心配になるし、爪の汚いネイリストに爪の手入れは頼みたくない。世の中、プロと呼ばれる人はたくさんいるわけですが、なかには怪しいなと思う人もチラホラ。

それは「採用のプロ」も同じでしょう。採用のプロというからには、自社の採用活動はスマートに成功してほしい。採用のプロが考える採用プランであるならば、これほど心強いものはないはずです、本来であればね。前回、そんなまさかの求人広告会社の採用活動の実態を記事にしましたが、今日はまたちょっと違った角度から、とある業界のエピソードを語りたいと思います。

 

本当にあった、求人広告会社の採用失敗の事例。

これは都内の某求人広告代理店での話です。記事の構成上、省略してしまう部分もありますので、フィクションと思って気軽に読んでもらえれば幸いです。そうです。これはあくまで昔話のひとつ!こんなこともあったのかもしれないし、なかったのかもしれない……。といった具合に受け取ってください…。あとで怒られそうなので(笑)

 

今回登場する求人広告代理店は、人材業界の好景気の波に乗り、ここ数年売上は好調。にも関わらず、ここ数ヶ月は度重なる退職者の波がどうにも止まらず、売上は良いのに社員は減る一方といった展開。会社が盛り上がっているのか、盛り下がっているのか、イマイチ良く分からない状態でした。

以前、記事に(プロなのに…実は自社採用で苦労している「求人広告会社」の実態)しましたが、毎月退職者が出ることは求人業界では珍しい現象ではありません。当の社長自身もそれほど深く気にすることもなく、また新たに若い社員を採用しようと意気込んでいました。会社の売上は上向きであったし、辞めていった社員たちの大半は入社2年以内の若手社員ばかり。組織の基盤を揺るがすようなコアな人材の退職者はおらず、業務には大きな支障はなかったわけです。「採用しても定着しない」すべての問題はここにありそうです。

ここは「採用のプロ」が集まる求人広告代理店です。定着率が悪い。その解決策ならお任せください!なんていう人間ばかりが集まる(笑)会社です。会社のパンフレットには「長年の採用ノウハウと膨大なデータで、御社の採用の課題を即座に解決!」なんて書いてあるわけですから、本来なら心配は無用なはず。

でも、現状はぜんぜんダメ。この2年間、採用した若手社員が気が付けば全員辞めていた。そうなっては、もはや「採用のプロ」も何が何だか…。

内定を出し入社を迎えることがゴール(採用成功)ではない。採用したらそれが成功!とはならない典型的事例です。皮肉にもその事例が「採用のプロ」を自称する求人広告代理店で起こったエピソードなのは笑い話です。

感の良い方ならもうおわかりでしょう。そうです、この会社には「育成」への取り組みがひとつもなかったのです。「人を育てる」考えのない会社が、何をどう間違ったのか、若い力溢れるポテンシャル採用へと邁進していたのです。

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真の採用成功は「入社後」に決まる。

社長はいつも決まって同じことを語っていました。

 

「若くポテンシャルの高い人材がいい」

「まだ何色にも染まっていない人材を自分色に染める」

「真面目で謙虚で反抗的ではない奴に限る」

 

といった具合。今までの奴はどうも反抗的でいかん!やはり、人は真面目でなければならない。そして、社長の中で一押しの選びぬかれた、若くてポテンシャルが高く、何色にも染まらず真面目で謙虚な人材が採用されるのです。

 

「今回の人材は非常に期待が持てる」

「私の人を見る目はなかなかのものだろう」

 

さすが採用のプロ。それなり採用のイロハは抑えています。しっかりと欲しいターゲットにあった人材を確保するわけです。しかし、しばらく経つと辞めていく。辞める前になると社長はこんな言葉を言い始めます。

 

「あいつはダメだ、次を探そう」

 

なぜ辞めていくのか。社長に見る目がなかったわけでも、採用した人材にとんでもない欠陥があったわけでもないのです。採用ターゲットは決して間違ってはいませんでした。若くてポテンシャルが高く、それでいて何色にも染まっていない、真面目で謙虚な人材であったのです。

だが、辞めてしまう。それはなぜか。新しく迎え入れる人材にどんなことを期待し、どういう役割を担って欲しいのか。そして、その役割に向かっていくために「どう人材を育成していくか」これがすっぽり抜けていたのです。「育成」の考えがまったくなっていないことで、目標を失った若手社員たちは、次々に辞めていったのです。

 

採用ターゲットは何を期待して入社してきたのか。

対価は何か。
これは真剣に考える必要があります。

経営者の多くは、自分がイチから育て上げた会社に自信があります。業界でNO.1でないにせよ、上場企業でないにせよ、自分の会社を自分の分身のように考え、会社を誇りに思います。そこに応募者がくれば、無意識に「そうだろう、そうだろう。数多くの企業からウチを選ぶなんて、なかなか見る目がある。」と考える。

「うちみたいな、吹けば飛ぶような小さな会社だが…」なんて周りには語りつつも、その内心では「どんな不況がこような、しばらくは安泰だ!」と思う。

「何よりも従業員の皆々様のおかげでここまで会社も大きくなりました」と言いつつも「他でもない俺がこの会社をここまで大きくした」と確信を頂いている。

それが中小企業の社長というものです。

 

いえいえ、世の中の社長をどうこう悪くいうつもりはありません。私が言いたいのは、求職者(応募者)は、目的(対価)を得るために入社を志望してくるのです。その応募理由は多くの場合は「社長への尊敬や敬意」ではないのです。

 

ヤリガイ搾取は、もはや詐欺である。

「この不況の時代、雇ってやるだけありがたいと思え」

 

こんな最悪のセリフを吐く前に、今一度、対価についてしっかりと考える必要があります。若くてポテンシャルの高い人材を、自分の会社に迎え入れるにあたって、仕事の対価として何を用意できるか。報酬なのか、安定なのか、仕事へのやりがいなのか。それともそのすべてなのか。

この求人広告代理店では、ほとんど評価制度も機能しておらず給与も常に一定。ヤリガイより売上を重視し、若手社員には「何でもいいから売上を上げてこい!」というばかりだったようです。

右も左もわからない状態の若手社員にとっては、何を目標にしていいのか。求められることは、何だかよくわからないが「売上」なんだと思うばかり。売上を上げるために必要なプロセスもわからず、半年~1年の間で辞めていっていたのです。奇跡的に自力で売上を構築し2年目を迎えても「なぜこの会社のなかにいるのだろうか」と目標を抱けずに、結局は辞めてしまうのです。

 

「ヤリガイ」「やりがい」「遣り甲斐」

 

ヤリガイとは自分で探すものかもしれません。しかし、ヤリガイを気づかせてくれる先輩の存在というのも、とても大事です。夢を語り、目標を示し、仕事の魅力に気づかせてくれる存在があったならば、定着する若手社員もいたことでしょう。

放置することでポテンシャルを測ることはできないのです。

 

未解決採用ファイル「その後、どうなったのか」

記事にするのも、何だか馬鹿らしくなってきたのですが、この求人広告代理店は、その後大きく改善されることもなく、いまだに辞めては採用しての繰り返しだそうです。

「若くてポテンシャルが高く、何色にも染まらず真面目で謙虚な人材」が欲しいということは変わらず、最近ではプラスして「辞めずに自分でヤリガイを見つけられる人」の項目が増えたそうです。

 

自ら主体的に考え動き、

自ら売上を構築し、

自己成長を実現し、

会社に貢献してくれる人材!

 

なるほど!社長!それで、そんな素晴らしい人材は、何故御社に入社を希望されるのですか?給与ですか?待遇ですか?それとも社長のカリスマ性ですか?

 

社長「ヤリガイだ」

 

…、なんて言ってるそうです。なんか書いてて疲れた。

 

最後にひと言だけ。真面目な話を。

採用ターゲットには制約はありません。欲しい人物像を自由に設計するところから始めましょう。ただ、そのターゲットは「何を求めて」当社に応募してくるのか。これは捻じ曲げてはいけません。ターゲットは必ず、何かを求めて応募してきます。もし、それが現状ないのであれば、作るしかないのです。ヤリガイという言葉で処理することはできないのです。

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