【WEBドキュメンタリー小説】
シリーズ「採用の原点」vol.3/チャネルを選べないジレンマ<全3回>
2016年の時点で日本の人材採用の市場規模は8兆円を超えるといわれている。そのなかで、求人広告メディアの市場規模は約9500億円ほどである。全体の中では少ないと捉えるか、それとも1兆円規模の市場を大きいと捉えるかは、それぞれの判断にお任せするとして、求人広告メディアの市場(約9500億円)と派遣や業務請負などの市場(約7兆円)とでは採用の目的、採用成功のゴールが大きく異なると私は思っている。経営者の気持ちに立っても、自社で新しい人材を採用したいと考える時に、自社雇用に対する気持ちは特別がものがある。なぜなら、その後の組織運営や将来の後継者育成にも大きく影響を及ぼしてくるからだ。
反響ゼロで苦労している飲食店店長にとって、採用に対する気持ちはどれほどのものかなのか。それを採用に携わるプロたちは見誤ってはいけない。経営者にとって「雇用を創出すること」「自社の雇用を増やしていくこと」というのは、格別な意味がある。自社雇用である意義が大きく存在する。
求人広告の営業にとって、企業の採用に関わるということは、どれだけ大きな意味を持つのか。経営の根底を成す、非常に重要な役割を影でサポートしていると言ってもいい。それだけに、アルバイト専門メディアで正社員募集を掲載するという、不可解な採用プランを構築し、無益なコストと時間を費やした営業マネージャーの罪は重い。営業マネージャーにとって、正社員募集の求人情報をアルバイト専門メディアに掲載するの意味はなんだったのだろう。実はこんな理由だった。
会社から与えられた目標(ノルマ)を達成するために、アルバイト専門メディアを売る必要があったから。
アルバイト専門メディアを売りノルマを達成することで、営業マンにとって多くのインセンティブを確保できるから。
つまり、彼にとっては、会社から与えられた使命を、ただ全うしているだけなのである。自身の会社での評価を担保するために、当然の選択であると意識していた。では、なぜ、会社としてそのような目標を課しているのだろうか。
実は日本のほぼすべての求人営業が、同じような状況で日々仕事をしている。メディアを運営する側、いわゆるメーカー営業であれば、自社ブランドの求人サービスしか販売できないのは理解できる。実際に、サービスを受ける側もそれは十分に理解し、他社のサービスなども参考にしながら、自社に最適な採用プランを探すだろう。しかし、複数のメディアとパイプを持ち、様々な求人サービスから最適なプランを選びだせる広告代理店も実は同じような状況に置かれている。広告代理店にも、水面下で取り交わされる各メディアのマージン率の設定や、専属販売契約などが存在する。売上の良い広告代理店であれば、それだけマージン率や優遇も多い。各メーカーそれぞれに自分のメディアをメイン事業として販売して欲しいという思惑もある。
広告代理店の中は、会社全体の目標として、特定メディアの販売を強化し具体的に売上数字を設定し、社員にノルマを課すことも日常的な光景だ。だとしたら、クライアント側にとって広告代理店を使うメリットはあるのだろうか。
様々な求人メディアから最適なプランを提供しているような話しぶりでありながら、実際は売るメディアは最初から決めている。巧みな営業トークで、クライアントは「採用のプロ」側の都合に付き合わされているかもしれないのだ。
一応、誤解のないように補足しておくと、もちろん業界内には彼のような営業ばかりではない。もっと誠実で戦略的な「採用のプロ」もたくさんいる。全ての求人営業を非難しているわけではない。ただ、事実として、売りたくてしかたないという甘い誘惑を抱えながら、求人メディアを販売する環境であることは知っておくべきことだろう。
多くの広告代理店のホールページには、全国様々な求人メディアのロゴが並び、会社の方針として「全国の様々な求人メディアから最適なメディアをお選びいただけます」と堂々たるコピーが書かれている。そして、社員ページでは、業界20年のキャリアを持つ営業マネージャーの輝かしいプロフィールが書かれ、最後に締めの言葉として
「貴社の採用募集にベストマッチした求人メディアを全国からセレクトし、長年のデータ分析と経験で最高のパフォーマンスを提供します」などと書かれている。
広告代理店の魅力とはまさにそうであって欲しいと思う。しかし、何の知識もなく鵜呑みにしてばかりいる怖さもあることをぜひ知っておいて頂きたい。余談ではあるが、営業マネージャーの次の一手は、残念ながらアルバイト専門メディアで掲載された。私はそれでも広告のコピーや広告デザインの部分で策を練り込み、結果としては何とか採用1名を獲得することに成功。しかし、もし他のメディアであったならば、採用コストはグッと抑えられ、よりマッチングの高い人材を獲得できたかもしれない。
クライアントは全権の信頼を持って「採用のプロ」に、自社の未来を託すだろう。「お任せください」という言葉が、もしかしたら本当は任せられないくらい危険な営業なのではないだろうか。その気づきを、本当に目の前にいる「採用のプロ」に本当に任せて大丈夫だろうか。いつか近い将来、求人募集をかけることになったら。その時までに、採用のプロを見抜く目を持つことは重要になる。そして、採用についてきちんと学んでいく必要がある。
多くの中小企業が幾度も採用で失敗を重ねている。当然、たった1度の採用で大きな成功を得ることは残念ながら難しい時代だ。しかし、2度、3度と採用費を重ねていく中で、確実に採用成功を掴んでいくために。また、採用成功の道を進んでいると疑心暗鬼にならずに思う為に。この費用はちゃんと“投資”となっているだろうか。それとも大きな無駄となっているのか。その迷いをできる限り、自信に変えていく為に、求人制作マンにできることはなんだろうか。
週末の繁華街を抜け、駅へと急ぐ。家路へと向かう電車を待つホームの上で、自分が本当にすべき仕事とは何かと考える。
最終的に伝えたいこと。今、採用で悩む経営者や人事担当者に伝えたいこと。それは採用に関わるすべての人たちに「採用の原点」とは何かを知って欲しいこと。そして、その知識(原点)を持って、自社の採用をもう一度見直し、自称「採用のプロ」たちと出会っても、同じ目線で議論を展開できるほどに実力を身につけて欲しいこと。
プロと同じ目線でなんて…。そんなの無理だ。と思うかもしれない。しかし、その目線は本当にプロだけのものだろうか。
本当のプロなら、採用の原点を知られたくらいでたじろいだりはしない。
これまでが異常だったのか。採用とは何かすら語らずに、ただ広告費や紹介料を取っていたいた時代は終わりを迎えている。
時代のトレンドは少しずつだがダイレクトな採用手法へと変化している。ツイッターやフェイスブックを使い、自らのコンテンツから、採用を発信し始めている。
そんな時代の中で、採用の基本を語り伝える人間が、必要なのではないだろうか。
<終>
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